何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



「向こうでも頑張ってね」


「うん。ありがとう」



二週間が経過したとある快晴の土曜日。


空港まで見送りに来てくれた両親にお礼を言って、私は住み慣れた東京を離れて、福岡へ飛び立とうとしていた。


あれ以来数回隼也から食事に誘われたものの、私が転勤の関係でとても忙しくそれどころではなくて、実は連絡すらまともに取れていない。


そんな状態で、転勤するとも言えないまま当日になってしまった。


当然、見送りになど来るわけもなく、隼也には別れの挨拶すらできなかった。


親友兼相談役としては、薄情な奴だと自分でも思う。


両親に手を振りながら保安検査場を通って、そのまま飛行機に搭乗。


スマートフォンを機内モードにする前に、報告だけはしておかないと。そう思って隼也にメッセージを送る。



"ずっと言えなかったんだけど、私、福岡に転勤することになりました。しばらく会えない。ごめん。また連絡するね"



送るだけ送って、機内モードではなくて電源を落とした。


このまま、私のことなんて忘れてしまえばいい。


私も、隼也のことなんて忘れてしまえばいいんだ。


飛行機の窓から見える東京の景色を目に焼き付けて、私は福岡へと向かったのだった。


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