───そんなとある金曜日。



「副社長、津田島です」


「どうぞ」


「失礼いたします。お呼びでしょうか」



朝出勤してから副社長室に入ると、資料を見つめながら険しい顔をしている副社長の姿があった。



「突然悪いね、午後からのスケジュールに視察の予定を入れることはできるかな」


「視察ですか?どちらの店舗でしょう」


「港区エリアが最近不安定なんだ。営業部長は大丈夫だって言っていたけど、自分の目でしっかり確認したくてね」


「かしこまりました。スケジュール調整をして各店舗にも連絡を入れておきます」


「助かるよ」



常盤副社長は今では現場からは遠のいているものの、入社直後は営業としてもバリバリ現場に出ていたらしい。役職がついた後もたびたび店舗に出向いては自分の目で見て気付いたことをフィードバックし成績アップに繋げてきたのだとか。


急いで秘書室で調整をかけながら、港区エリアの各店舗責任者に一斉にメールを送信する。


昼休憩の後すぐに車に乗り込んだ。



「常盤副社長!お疲れ様です」


「お疲れ様。急に悪いね、ちょっと見させてもらうよ」


「はいっ、よろしくお願いいたします」


「ははっ、そんな固くならずにいつも通りやってていいよ。私は勝手にいろいろ見てるから」



副社長の無邪気な笑みに店舗の責任者の女性は緊張した面持ちで一礼した。


副社長は店内のディスプレイからスタッフの接客態度まで幅広く視察をしていた。


他のブランドの店舗もちらりと見て周り、客層や人の入りをくまなく観察してから次の店舗、また次の店舗と回る。