猫目先輩の甘い眼差し


「だけど、朝日さんが唐揚げを食べさせたって言うもんだからさ。なんてことしてくれたんだよって、不機嫌になってた」



「本当にごめんね」と、2度目の謝罪を受けた。


あれだけ拗ねていた理由と、ブツブツ不満を吐いていた理由がようやく判明した。

あのままキスしてたら、危うく唐揚げ味のキスになるところだったよね……。

しかも唇、油でテッカテカだったと思うし。


謎が解けて、唐揚げに何の問題のないこともわかってホッとした。



「いえ、こちらこそ。勝手に食べちゃってすみませんでした」

「ううん。むしろ今、朝日さんには感謝してるよ。だってそのおかげで、忘れられないファーストキスになったから」



校門に向かう足がピタッと止まる。

それって、まさか先輩も……?



「今度から桃食べたら、今日のこと思い出しちゃいそう」

「っな、何言ってるんですかっ!」

「3ヶ月記念は、桃のケーキでお祝いする? でも売ってるっけ。桃って夏が旬だったよな」

「っ……!」



少し意地悪そうに含み笑いをする彼を、唇を噛んで睨みつける。


私達の初めてのキスは、いちごみるくの味でも、甘酸っぱいレモンの味でもなく。

ほんのり甘いピーチの香りに包まれたのだった。
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