日溜まりの憂鬱
1章
 チェストの上に置かれた卓上カレンダーに目をやった。

 三日後の11月10日、ボールペンで”11時、野田さん”と書き込まれている。
 書き込んだのは樋口 菜穂(ひぐちなほ)本人であるにもかかわらず、その表情はどこか浮かない。

 野田さんから五ヵ月ぶりに電話があったのは卓上カレンダーを10月から11月へとめくった直後だった。
 その電話に出るか出まいか逡巡したが、出なければ再度かかってくるだろう。

 仮に折り返し電話がなかったからといって「やり過ごせた」とホッと胸をなでおろす性格でないのは、菜穂が一番知っている。
 いつもそう。気持ちのどこかで「かけ直さなきゃ」と妙な律儀さが付きまとい、どこからか侵入した小蝿のように気になって仕方がない。だったら最初から出たほうがましだ。

 たかが電話に出るか出ないか。
 たったそれだけのことにエネルギーを消耗させ疲弊する。そんな自分自身にうんざりするのもいつものことだ。

―――なぜ私はこうなんだろう。
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