囚われて、落ちていく
「つむちゃん、買い物に行くなら一緒に行こ?
いつものスーパーだよね?送るよ?」
散々、都麦の口唇を貪って気持ちが収まった刹那。
ジャケットを羽織りながら言った。

「あ、今日はデパートなの。
そっちの方が、いいお肉があるから」
「そう。じゃあ…デパートまで送る」
「え?でも、会社と方向が逆だよ?」
「うん、そうだね」
「私、ゆっくり歩いて行くよ。今日はお天気いいし」

「………都麦」
「は、はい!」
「まさか、嫌?送るの」
「へ!?」

どうしてそんな考えになるのだろう。
都麦は単に、遠回りになるから気を遣っただけなのだ。

「俺は少しでも長く都麦といたいのに、都麦は嫌なの?」
「ううん!そんなことないよ!ほんとだよ?
ただ、申し訳ないなって思って言っただけなの。
遠回りになるから。
刹那さん、社長さんでしょ?
遅刻なんて、厳禁だし…」
慌てて弁解する都麦。

「気を遣わなくていいのに……
今日は事務所に行くから、時間はあってないようなもんだし」
「事務所?」
「組事務所だよ」

「━━━━━━!!!!」
刹那の口から出てきた“組事務所”という言葉。
わかっているはずなのに、辛い現実を突きつけられてるようで思わず言葉に詰まる都麦。

「都麦?」
「あ…そ、そうなんだ」
「つむ━━━━」
都麦は刹那に抱きつき、刹那の胸に顔を埋めた。

「………お願い、刹那さん。
“つむちゃん”って呼んで?」
「つむちゃん」
都麦の頭を撫でながら、優しく呼ぶ刹那。
「もう一回…」
「つむちゃん」
「刹那さん」
都麦は顔を上げて、刹那を見た。

「ん?」
「できる限りでいいから、刹那さんの口から一花組のこと聞きたくない。
ワガママで勝手だけど、いつものあの柔らかい刹那さんがいい!」
「うん、わかった!
つむちゃんの前では、話さないようにする。
大丈夫だよ。前みたいにすればいいだけの話だし!」
「ありがとう!」

そして二人は車に乗り込んだ。
都麦をデパート前で降ろし、刹那は組事務所に向かった。
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