小さな願いのセレナーデ
おそらくこの準備中聞こえるバンバンとした音は、リビングに置いてある鉄棒で派手に遊んでいるんだろう。
鉄棒にトランポリンと、今のリビングはちょっとしたトレーニング室のようになっている。


私は準備室の鏡の前に立って、しっかりとメイクを直した。
ここに引っ越してからより一層、身だしなみに気を遣うようになった。
ここの奥様として──昂志さんの妻として、ここで教える先生として、見た目も相応しい人でありたいから。


「ごめんなさい、お待たせしました」

私はレッスン室のドアを開ける。
元々ここは瑛実ちゃんの部屋だった。瑛実ちゃんがウィーンに発った後、改装して準備室とレッスン室の二つに分けたのだ。

「よろしくお願いします」
そうペコリと頭を下げるのは、碧維と同じ幼稚園に通っていた一歳年上の女の子。去年からバイオリンを始めた子だ。

「じゃぁまず、この間の続きから行きましょうか……」

私は楽譜を捲りながら、彼女がバイオリンを構える姿を見ている。
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