小さな願いのセレナーデ

二週間のレッスンは、すごく自分の身になることばかりだったが……一方で、私が努力しても追い付けない、天才と言われる聖域の存在も見事に思い知ってしまった。

「よく音楽のことは分からないけど、俺は君の音が好きだよ」
彼は私を包み込むように、優しく微笑んで手を握った。
私は彼と一緒にいる、こんな穏やかな時間が好きだった。彼は凪のように、穏やかに私を包んでくれる人だった。


「今日も演奏、聞かせてくれるの?」
「いいですよ」

私の音が本当に好きなのかは分からないが、彼はいつも私の演奏を聞きたいと言って、会うたびに私は演奏していた。
実のところ、私の泊まっていたホテルでは楽器は演奏可能だが二十時まで。彼の泊まる部屋は制限が無いところばかりだったので、私も練習できて助かっていたのだが。

私はバイオリンを取り出すと、軽くチューニングをする。

(うーん……どっちの曲にしようかな………)
候補は二つあったか、もう遅い時間なのでこの曲に決めた。
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