小さな願いのセレナーデ
演奏の途中、彼が手を止めた。
「そろそろ行かないとじゃない?」

時計を見ると、もう時間は十七時半を越えていた。
「一緒に行くよ」と彼も立ち上がって、帰り支度を始めた。



「碧維君、お迎えですー」
保育園に到着し、碧維の帰り支度をはじめる。

「今日碧維君、何ときゅうりとワカメの和え物、食べたんですよ!」
「本当ですか?!」

最近の碧維は野菜を食べてくれなくなった。
唯一カレー、しかもレトルトなら食べてくれる状況。
でも保育園ならたまに野菜を食べてくれる。だからまだ少し安心できる。

先生にさよならを言って保育園の外に出ると、秀機君の姿を見つけて「あっ!」と声を上げる。

「碧維く……まて!」
そのまま碧維は隣の公園に走っていき、秀機君が追っかける。キャハハと楽しそうに走り回る碧維を秀機君が追っかけ回し、数分後、ようやくベビーカーに乗せた。

「はぁ、疲れた」
「ごめんね」
「まぁ元気が良いってことじゃん、なぁ?」

秀機君は碧維の頬っぺたを突っついて笑う。碧維も声を上げて楽しそうに笑っている。
もう産まれた時から知っているから、二人は随分と仲は良い。最初は抱っこもできず、触ることすら怖いと言っていたのが嘘みたいだ。
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