小さな願いのセレナーデ
元々私の大学の恩師、蒲島(かばしま)先生が、彼の恩師、原先生と仲が良く、よく共同で公演などを行っている。その縁で大学在学中からよく顔を合わせていて、演奏仲間では一番仲が良かった人物なのだ。
ちなみにウィーンに留学経験もあり、今は小さなホールでソロコンサートが行えるぐらい人気もある。
見た目は男らしい骨っぽくがっしりとした感じだが、それとは真逆の繊細で美しい音が評判。
ちなみに「ゲイバーに行くとモテる」らしいが、ツーブロックの髪型が余計にそう感じさせるのではないかと思う。


「ちょっと合わせてくれない?」
「いいよ。今度の客演の?何?」
「ベートーベンのバイオリンソナタ第10番」
「わかった、ちょっと待ってね」

秀機君は今度、バイオリ二ストの客演でピアノ演奏するらしい。よく客演を引き受けているので、私が練習に付き合うことはよくある。

部屋をピアノのある部屋に移動して、秀機君の演奏に付き合う。
彼の音を聞いていると、やっぱり第一線でステージに立つ人の迫力は凄いと感じる。
それに彼自身の人を惹き付ける演奏も。
ゆったりとした伸びのある音が、一音一音輝いて聞こえる。テクニックがあることを前提に、こんな音を出せるから、ソロで公演ができる程の人気があるのだと思う。

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