小さな願いのセレナーデ
「正直、アキちゃんのことすごく心配だよ。そんなに働いて……」
「大丈夫だよ」
確かに当初の予定より、随分と働いてるとは思うけれど。

「お金は碧維の為にもなるしね。あるに越したことはない」

一応基本給も貰っているが、レッスン手当てが出る。お金はいくらあっても、困るものではない。


「……一応俺に碧維君は懐いてくれている」
「そうね」
「碧維君に、これから父親は必用だと思う」

ドキッと心臓が音を立てる。
多分碧維は、私の体力を抜くだろう。それも近いうちに。
だから私の他に、彼の隣に居てくれる人は必用だとは、思っているのだ。

そしてもう一つ…今から、彼が言おうとしていることは、わかるから。


「だから、アキちゃんも碧維君も俺が面倒見…」
「それはできない」

何度も聞いた、この言葉。
いつも彼は申し訳なさそうに、この言葉を言う。
だけど、私は彼にそんな顔をして欲しい訳じゃない。

「秀機君が気に病むことはない。これが私の選んだ道だから」

そう言って、私は部屋を出ていった。

そう、これは全部私が選んだ道だ。
なりふり構わず、何かにずっとしがみつける程、強い意思がなかった。
そんな私の選んだ道なのだから。

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