激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす
一、二度と忘れない香り。
一、二度と忘れない香り。


 初対面の人には、必ず言っていることがある。そう言っておけば、その後の私の奇抜的な行動の説明が省けるからだ。
私は極度の匂いフェチだ、と。


ちなみに誰にも聞かれていないが、動物の、肉球の匂いがたまらない。猫と犬の匂いは大好きでたまらない。
けれど子犬はお迎えしたかったけど、重度の動物アレルギーを持つ姉がいたので、口に出すことはできなかった。


 美人で両親の愛を一身に受け、独り占めしてきた姉が私の家族の中で一番なのだから。
 姉とは昔から色々馬が合わないので、疎遠になっている。

 もう何年も姉とは会話してないし、共通の趣味もないし、向こうから連絡がない以外では関わらないようにして我が身を守ってきた。


 私はかなり変態に違いない。から、姉にこのフェチがばれると馬鹿にされるとはわかっていたし。そもそも姉とはいい思い出がないので、社会人になった今、いまさら自分から苦行を受けに行きたくない。
だから、こうしてオリジナルの香水を作れる会社に就職し、日々色んな香水つくりに精を出している。家族とはほぼ交流もなかったけど、大好きな仕事に、優しい恋人がいてそれなりに幸せな日々を過ごしていた。

 姉が私と彼の前に現れるまでは。

 ***


 彼と結婚すると、親に挨拶しに久々に実家に帰宅した日。
 母は私にキッチンを手伝えと誘導し、彼と姉はリビングで少しだけ会話していたらしい。
 まさかその数十分の間に、アドレスまで交換していて、その後も交流を持っていたと知ったのは、結婚式の招待状が完成した日。

 郵便局へ届けに行こうと紙袋いっぱいに詰めて、彼と待ち合わせしていた日だった。
 夏の途中だった。終わりでも始まりでもない中途半端な時期。
 私たちは冬に挙式できればいいよねと準備し始めていた時だった。

「大事な話がある」
 私の恋人は、思い詰めた顔で待ち合わせのカフェの入り口に立っていた。
 予想していなかったのは、彼の隣で神妙な顔つきで立っている姉がいたこと。

「優希、どうしたの?」

 なぜ仲の悪い姉がいるのか、不思議だった。それと同時に胸騒ぎで背中に汗が浮かんでくる。
「今後のことについて、話しておきたくて」
 彼がその言葉を吐いた瞬間、姉は彼の腕のスーツを小さな指先で掴んだ。
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