悪役令嬢の涙。好きな人を守るのためならば、私は悪役でも構いません。

悪役令嬢としての最後

「誰かティアを部屋へ閉じ込めておくんだ。君への処分は追って伝える。それまで部屋で一人、大人しくしてるんだな」

 ああ、ホントに長かった。私がほほ笑むと、カイルは顔を歪ませた。

 叔父たちの言葉を聞いて、学園に戻ってからは大変だった。

 カイルに嫌われるにはどうすればいいのか、全く分からなかったからだ。

 人に嫌われるというのも、今まで経験したことないコトは想像がつかないということを思い知った。

 本から知識を得られないかと、図書館を何日もウロウロしていた時、ある一人の令嬢が悪役令嬢の出てくる物語を教えてくれた。

 それは悪役令嬢と言われる令嬢がヒロインである女の子をいじめ、それを見た主人公が心を痛め、元々婚約をしていた悪役令嬢との破棄するというお話。

 そして主人公により断罪されたその悪役令嬢は、そのまま国外追放となったそうだ。

 私はその悪役令嬢になればいい。それを演じれば、きっと上手に婚約破棄をすることが出来る。

 私の置かれた状況には、まさにこれがぴったりだった。

 私が悪役令嬢となりカイルに嫌われ、ヒロインであるリーリエが主人公のカイルと結ばれる。

 すべてがこれで丸く収まり、二人も幸せになれる。それはこれ以上にないほどの、私が望んだ展開だ。

 そして邪魔者の私が退場すれば、叔父たちはもう手出しできない。

 それからリーリエをいじめる日々が始まった。

 いじめなどしたことがない私は、その物語をなぞって、リーリエの物を隠したり、わざと無視をしたりしたのだ。

 ただやるたびに心が痛くなる。

 痛くて痛くて、いじめるという行為でさえ、それをする気のない者にとっては、ただの苦痛でしかないということを知った。

 そんな日がしばらく過ぎると、私以外にもリーリエをいじめる者が出てきてしまった。

 それは私が行っていたいじめよりもかなり過激で、リーリエを突き飛ばされたり、水をかけられたりしたというのだ。

 いくらなんでもそんな過激なコトを行えば、ケガをするのは目に見えている。

 私はすぐに辞めさせようとリーリエに悪意を向ける奴を必死に探したが、とうとう今日まで見つけることは出来なかった。

 しかしその誰かのいじめすら、もしかしたら私がしたコトと思われているのかもしれない。

 でも、それでももうどうでもよかった。

 次はきっと、カイルがリーリエのことを守ってくれるはずだから。

 私の悪役令嬢としての役も、二人の親友も、すべてココまででおしまい。

「私を誰だと思っているのですの。離しなさい」

 抵抗する素振りだけ見せる。二人の目には、悪役令嬢が悪あがきしているように見えることだろう。

 もう私の言葉に耳を傾ける者は誰もいない。

 私を捕まえた男たちは、そのまま用意された部屋へ押し込めた。

「出しなさい」

 ドンドンとドアをたたいても、びくともしなかった。
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