強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
一夜の快楽
 ……ただれている、と思う。

「さっきの支配人の話どう思った?」
「えー? 一夜くらいなら良いんじゃない? って思ったよ?」
「だよねー? イケメンらしいし、気に入られれば玉の輿も狙えるかもしれないし」

 笑いながらそう話す同僚に、軽いなぁなんて思いながら私は仕事着である着物を着つけていた。


 さっきの支配人の話とは、今日から滞在する一人のお客さんのことだ。

 イタリアを拠点に、世界各地の高級ホテルを所持しているいわゆるホテル王、ケント・ビアンキ。
 当然ながら東京にも彼の所持するホテルがあるけれど、今回もう一つ日本国内に建設しようという計画があってこの土地に下見に来たらしい。

 私が勤めているこのホテルともかなりいい条件で提携を組んでくれるらしくて、ここの社長は彼に頭が上がらないのだとか。


 そしてそのケント・ビアンキ。
 かなりの女好きらしい。

 宿泊した先々で美女を見繕っては一夜を共にするというのはその界隈では有名なことらしかった。

 だから支配人は彼が到着する前に私達、主に女子社員を集めて注意喚起したんだ。


 ケント・ビアンキに見初められた場合、会社側からは何も出来ない、と。

 どんなに嫌でも助けることが出来ないから、彼と二人きりになるようなことはないように、と。
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