【コミカライズ】腐女子令嬢は隣国の王子から逃げられない~私は推しカプで萌えたいだけなのです~
「そちら。最近このアスカリッドで流行り出したお茶のようです。果物の香りがいたしませんか?」

 モイラに言われ、もう一度香りを味わうと、何か甘酸っぱさを感じた。
「これは、ブドウの香りかしら?」

「正解です」

 別にクイズの出し合いをしたわけではないのだが、モイラにそう言われるとなぜか嬉しい。

「こちらもどうぞ」

「まあ、可愛い」

 アスカリッドには可愛らしいものが多いな、というのもアイリーンの印象。温かくて可愛らしい。そんな国。住みやすい、かもしれない。一年いてそう思った。
 残りはあと一年。それが終わればプーランジェに戻る。だけど、なぜか名残惜しい気もする。このアスカリッドに残っていたいような。
 アイリーンは可愛らしいクッキーをつまんだが、口の中へいれずに唇の手前で止めた。その様子をモイラは黙って見ていた。

 私は、アスカリッドに残りたいと思っている?

 その心境の変化をうまく受け入れられない。だがふと考えた。プーランジェに戻ったら、アディとの仕事はどうしたらいいのだろう。
 もしかして、プーランジェに戻れないところまできてしまったのではないだろうか。
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