消えた未来
 だけど、少年はボールを受け取っても広場に戻ろうとしない。それどころか、私の顔を見つめてくる。

「お姉さん、この前侑生とケンカしてた人?」

 ここでも久我君の名前を聞くことになるとは思っていなくて、反応に困った。それも、どうやら変な場面を見られていたみたいで、余計に言葉が出てこなかった。

「この前って……?」

 戸惑いを隠そうとしてみたものの、上手くできなかった。

「浅野がこけてた日」

 少年は手持ち無沙汰になったのか、リフティングを始めた。結構上手で、そのボールの動きに目がいってしまう。

 それにしても、少年が言う浅野という子がわからないけど、誰かが転んで、久我君と話した日なんて、あの日しかない。

 たしかに、あのときは一方的に久我君に睨まれていたから、はたから見ればケンカをしているようだったのだろう。いや、どう考えても私が怒られていただけでは。

 そう思ったけど、同級生に怒られていただなんて訂正を自分でできるわけがなくて、話を逸らすことにした。

「……君も、久我君と仲がいいんだね」
「お姉さんは違うの?」
「私は……嫌われてる、から」

 自分で言っていて悲しくなる。

 久我君に好かれたいとは思っていないけど、やっぱり誰かに嫌われているというのはつらい。
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