そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
***

 入り口近辺で、なるべく頼綱(よりつな)を視界に入れないようにして湯けむりの中に突っ立っていたら、さすがに(ごう)を煮やされたらしい。

花々里(かがり)、いい加減こっちにおいで。扉の開けっ放しは寒い……」

 愚痴まじりに呼ばれてしまった。

「あ、あのっ、目のやり場に困るので目、つぶって行きますねっ?」

 言って、背後の引き戸を閉めると壁伝いにノロノロと前進を開始する。

 このまま壁を突き当たりまで進んで、その後突き当たった先を右に向かって進んでいったら彼のそばにたどり着けるはず。

 軽くシミュレーションをしてから、ギュッと目をつぶって手足が伝えてくる触覚だけを頼りに歩き出す。

 と、突き当たりを曲がって少し行った辺りで、足が何かを蹴っ飛ばして、直後ぬるっとしたものを踏んで、それはそれは見事にツルリと身体が傾いた。

 もしや私、石けん踏んじゃったかも!?って思ったけれど後のまつり。
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