Let's鬼退治!

第2話

「俺ら、なんか悪いことした?」

「してないよ。気にすんな」

 キジはまだ遠くからにらんでいる。

「なんで?」

「だから何でもないんだって」

 キジはフライパンに油を引くと、火をつけた。

「あ、オムライスの卵で包むのになったら、自分でやるから」

 中くらいのはそんな空気を和ませるつもりで言ったんだろうけど、キジの眼光は逆に鋭さを増した。

「は? まさかやってもらえるとでも思ってたわけ?」

「そ、そういう意味ではなかったんだけど……」

 とにかくキジの顔が怖い。

中くらいのはすっかりふてくされて、小さくなってしまった。

何だかずっと隣でブツブツ言っている。

あたしはそんな中くらいのを見ながら親切心で教えてあげる。

「自分の分は自分でやれって」

「分かってるよ!」

 その後も作業は順調に進み、あたしと中くらいのは、とんでもなく退屈していた。

そもそもいっちーが料理慣れしているうえに、さーちゃんも何だかんだで、そつなくこなしている。

キジは周りの空気を悪くさせまくってるけど、作業の手は止まらない。

細いのと丸いのは、キジの悪態にめげずに一生懸命参加している。

手の上で豆腐を切るのは初めてとかいう細いのの挑戦に、キジ以外は笑っていた。

ある意味平和な世界だ。

「お前も手伝えよ」

 あたしはさっき言われたのと同じように、やっぱり退屈している中くらいのに言ってみた。

「お前に言われたくないんだけど」

 同じような返事が返ってきたのに、ちょっとウケる。

「だからこういうの、苦手ってゆうか、興味わかないんだって」

「俺もだし」

「そっか。なら仕方ねぇな」

「うん」

 ご飯の炊けるいい匂いが漂ってきた。

味噌汁は出来たみたいだし、ポテトサラダに投入された具材とマヨネーズは、丸いのが一生懸命混ぜている。

いっちーが炊き上がったご飯をフライパンに移した。

「おい。そこの2人。ケチャップご飯くらい作る?」

 そう言われたあたしと中くらいのは、同時に首を左右に振る。

その動作までシンクロしていた。

やる気の出ないものは出ないのだから、仕方がない。

「……。ま、だよな」

「だな」

 いよいよ最後の仕上げに入った。

ケチャップご飯のたまご包み。

いっちーとさーちゃんはフライパンの上で綺麗にご飯を包むと、それを皿に移した。

そんな高度なテクニックを持ち合わせていないキジと丸いのと細いのは、出来上がった薄焼きたまごを皿に盛ったチャーハンの上にかぶせる。

「ほら、お前らの番だぞ」

「俺が先にやる」

 中くらいのは立ち上がって、ボウルに卵を割った。

菜箸でそれをかき混ぜると、フライパンに流す。

ジワュッと音を立てて、卵の表面が泡だった。

「わっ、コレどうすんだ?」

 中くらいのは慌ててひっくり返そうとして、フライ返しでたまごを破ってしまった。

「クソッ」

 そのままぐちゃぐちゃにかき混ぜようとする腕を、いっちーが掴む。

「待って。そういう時は一旦火を止めてから、卵を追加して挽回すればいいから」

 崩れたたまご焼きの上に、新たな卵液が流し込まれる。

「これで回復は出来た。後はうまくやって」

 いっちーが言うと単なる調理実習の料理じゃなくって、どっかの騎士団の極秘任務みたいだ。

「ちゃんとたまごが固まってから、丁寧にフライ返しを入れたら上手くいくから」

 さーちゃんからもアドバイスが入る。

作業を終えた細いのと丸いのも集まってきた。

中くらいのはぎごちない手つきながらも、何とかたまごを皿に移し、自分のオムライスを完成させた。

「おぉっ」

 細いのと丸いのは、ささやかながら盛大に拍手を送っている。

中くらいのは汗なんかかいていないのに、額の汗を拭った。

「なんとかなった」

 顔が真っ赤だ。照れてんのか。

「次はももね」

 いっちーから卵液の入ったボウルを渡される。

流した玉子が焼き上がっても、うまくフライパンから卵がはがれなかった。

「あれ? なんで?」

「かして。やってあげる」

 キジはあたしからフライパンを奪いとると、くるっと手首を返した。

薄焼きたまごは宙を舞う。

それはいい感じでふわりと皿に舞い降り、菜箸とフライ返しの二刀流で、オムライスはオムライスしたオムライスな楕円形に丸められる。

「わーい。やったぁ! キジ、ありがとう」

 キジは満足したように、得意げな笑みを浮かべた。

中くらいのはそれに舌打ちする。

「んだよ、ソレ。ずりー」

「ま、仕方ないよね」

 あたしは中くらいのに向かって、ニッと笑ってやる。

食べ終わった後の片付けは、何だかんだであたしと中くらいのだけじゃなくて全員で協力して、さっさと終わらせる。

これで調理実習も終わり。

解散。

「お前らって、まだ鬼退治続けんの?」

 家庭科室を出たあたしたちの、腰に差したこん棒を見ながら中くらいのは言った。
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