政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「そういうのが……分からなくて」
「そうだね。今までは抱き合っても服越しだったからね」

 ふふっと笑った片倉がきゅうっと浅緋を抱きしめる。

 知らなかった。
 こんな風にして抱き合ったら、それだけでも肌が擦れあってしまって、それだけでもドキドキしてしまうこと。

「それに……慎也さん、とても綺麗なんです。ずるいわ……」
 抱きしめられたその腕の中でそう言って、片倉を見る。

 眼鏡を外した顔すら端正で、身体まで綺麗。
 浅緋を抱いている片倉が、浅緋の背中から腰にかけて手を滑らせる。

 ぴくん、とした浅緋は目の前の片倉の身体に抱きついてしまった。
「っ……んん……」

「何言ってるんだか。綺麗なのは浅緋だ。綺麗な背中、肌も白くてすごく滑らかだ。腰も細くて、こんなに華奢なあなたにこれから行為をしても大丈夫なのかって思うくらい」

 抱きついてしまった浅緋を片倉はそっと抱きしめてくれる。

 知らなかったけれど、この肌さえ触れる近さがお互いの愛情を確かめ合う、ということなのだろう、と浅緋は納得した。

 戸惑っても、ドキドキしても、いじわるだとにらんでも、片倉は全部全部うけとめてしまうから。


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