政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 槙野はそれを報酬をもらってやっている。
 であれば、きちんと責任もってやるのが当然だろう。

 片倉の決めた食事の店が個室の割烹であったことには、ますます嫌な予感が当たりそうな気配を感じた槙野だ。

 お互いに仕事を終えて、片倉の車で店に向かう。
 片倉の車と言っても本人が運転するわけではなく、運転手付きの車ということだが。

 後部座席に2人並んで座っていたのだが、片倉は考え事をしているのか口を開く様子はない。
 沈黙に耐えきれず、槙野が口を開いた。

「話ってなんだ?」
「あ……うん、店に着いたらゆっくり話す」
 
 歯の奥に物が挟まったような話し方なのも片倉らしくない。
 車の外をぼんやり見るとか、むしろ病気を疑うレベルだ。

 ……いや、まさか本当にそんなことは……。

「余命はどれくらいなんだ?」
「分からないが長くはないような気がする」

 まさか本当に病気とは……。

「分からない? 病院に行ってないのか?」
「行ってるよ。けどそんなことは聞きづらいだろう」
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