若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

《5》


 最後まで抱かせろというカナトの言葉に衝撃を受けながらも、マツリカは彼とともに事故当時の関係者が勤めているというカイマナ・カミオオオカ・インペリアルホテルのエントランスへ足を踏み入れた。
 カイマナ・ビーチに面した場所に位置している全体的に白で統一されたこのホテルは日系企業ということもあり、多くの日本人観光客が利用している。ワイキキよりも静かなロケーションがサーファーや海水浴客にも人気だという。

「これはこれは鳥海さま、ようこそお越しいただきました」
「堅苦しい挨拶はいいよイッセー」
「でも鳥海先輩、珍しいですね何も連絡しないでハワイに来られるなんて……さてはプライベート?」
「よけいな詮索は不要だ。仰木(おおき)はいるか」
「僕じゃなくてオオキさんに用なの? じゃあやっぱり仕事か、なあんだ」

 彼なら支配人室にいるよと朗らかに説明されたカナトはやれやれとため息をつきながら言い返す。
 マツリカはふたりのやりとりをきょとんとしながら観察している。先輩、というからこのイッセーという青年はカナトと同じ海洋商船高専の卒業生なのだろう。
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