黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜

八重樫君の秘密

どうも最近食欲がない。
仕事に疲れているのだろうか。

あれから2週間経ったが映画のお誘いはない。もちろん誘いはなくてもいつものように一人で映画を見に行く。
おひとり様なんて慣れたものだったのに、周りのカップルや家族に引け目を感じてしまう。

最悪だ。
だからずっと一人がいいのだ。
ずっと一人ならそれが当たり前になって気にしないでいられる。
でも、二人の時期がほんの少しあるだけで、あっという間に順応し、一人になった途端に孤独を感じる。

誘われても、もう一緒になんて観てあげない、と思いながらもいつものように八重樫君が待っていたら仕方ないなと大人ぶって観るんだろうなと思ってしまう。

母性本能とはある意味病なのかもしれない。
懐かれて、私が何かしてあげなきゃと思い、子の巣立ちを寂しく思う。
これはまさしく母性本能。
私は母性本能症候群だ!

そんなことを思いながら八重樫君のいない映画館のロビーを通る。

「遅くなった! ごめん」

男の声がして振り返る。明らかに声が違うと分かっていてもその中に八重樫君の声を見出してしまうという重症度だ。

映画もあまり集中できずに楽しめなかった。
最近の八重樫君はとても疲れているようで、目にクマなんか作ってきている。
真っ赤なリップを塗った女性社員が代わる代わる世話を焼き、私の出る番なんてない。

映画館を出ると雨が降っていた。小雨なのでそのまま歩く。
海外映画の影響を受け、小雨程度なら傘をささない方がかっこいいと思ってしまう。

語る人もいないので、そのまま電車に乗り、最寄駅で降りた。
雨は土砂降りに変わり傘を求めた人が多かったのかコンビニの傘は売り切れていた。

会社に行くときのバッグには折りたたみ傘が入っているが、おしゃれを追い求めたこの小さなバッグにはそんなものはある隙すら無い。

仕方なくそのまま歩くことにした。
映画のワンシーンのように街頭に照らされながら夜道を歩く。

家に着く頃には服から洪水のように水が滴り落ちていた。

すぐにお風呂に入ったが冷え切った体は中々暖まらなかった。

30を超えての無謀な行いは禁物だ。
翌日私はものの見事に熱を出した。
そして、10代の頃は寝てれば治ったのに、30を超えると寝ているだけでは治らない。

翌日仕事を休み病院に行って処方箋をもらった。
1日でも早く治さなければ会社の人に迷惑をかけてしまう。
家に帰り、レトルトのお粥を温めて食べて薬を飲んで寝ていたら、チャイムが鳴った。

ネットの勧誘か何かだろうと無視をしていたら何度も何度もチャイムが鳴った。

ああ、もううるさいな!

布団をがぶり丸々とスマホが鳴った。

今度は何? と思うと、スマホ画面に知らない番号が通知されている。

恐る恐る電話に出ると聞き慣れた声がした。
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