同居人は無口でクールな彼
思いもよらない提案に、翔哉くんと2人同時に振り替える。
そして――
「ダメ」
と、わたしたちの声が重なった。
「はは!灰谷、篠原だけじゃなくて、鈴香ちゃんにもフラれてんじゃん」
少し気まずい空気になりかけたけれど、のんちゃんの笑い声が吹き飛ばしてくれる。
“すず”と呼ばれることが嫌いなんじゃない。
ただ――
「灰谷くんには今まで通り呼んでほしい。灰谷くんから“鈴香ちゃん”って呼ばれるの好きだから」
「あ、うん。わかった」
翔哉くんは何も言わなかったけれど、彼が歩き出したのを合図にこの話題が終了した。
「“鈴香ちゃん”って呼んだ方がいい?」
「え?」
「さっき、灰谷に……」
翔哉くんは一度もこっちを見ない。
指が忙しなく動いていて、落ち着きがない翔哉くん。
「あのね、翔哉くんには“すず”って呼んでほしい」
「……わかった、すず」
翔哉くんだけが呼ぶわたしの呼び方。
翔哉くんから呼ばれる“すず”はとても特別だった。