同居人は無口でクールな彼
「言いたいこと言えたじゃん。野々村さん」
篠原くんはわたしの横を通り過ぎるときに、こうつぶやいた。
しかも、言いたいことが言えたことをほめてくれた。
それがうれしくて、うれしくてたまらなかった。
それに、わたしのことを“野々村さん”と呼んでくれた。
しばらく“あんた”と呼ばれていたのに。
ぱあっと心が晴れ渡っていくような気がした。
「帰らねーの?」
振り向きざまに聞く篠原くんの顔には、夕日が差し込んでいる。
少しだけ彼に近づけた気がして、「帰る」と答えて彼の後を追いかけた。
「あと、名前で呼んでくれるんじゃねーの?」
「え?」
そっと道路側に移動した篠原くんは、こちらを見ずに聞いてきた。