同居人は無口でクールな彼



篠原くん、今わたしに謝った?と、はっきりと聞こえた言葉なのに、耳を疑いたくなる。


「……え?」


思わず顔を上げて彼の顔を見た時だった。

篠原くんの後ろに人影が見えたのは。

その人はわたしと目が合うと、音もなくどこかへと立ち去ってしまったけれど……



「どうした?」

「今、あそこに……」


こんな場面を人に見られたらまずいと思って、人影が見えた方を慌てて指さした。




でも――


「誰もいないけど」

「…………」


さっきまではいたのに。

立ち去っていく後ろ姿も確認できたのに。


わたしたちを見ていたのは、同じクラスの佐藤希美ちゃんだった。

彼女はクラスの女子の中心人物で、みんなの人気者。


こんな時間にどうして学校に残っていたのかは分からない。

でも、わたしは確かに彼女を見た。




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