偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 あかりは響一に隠し事をしている。あと三か月ほどで務めている職場が無くなり職を失うことを、まだ響一には話していない。

 彼を心配させないために、そしてそれが離婚のきっかけにならないために……彼の傍にいるための言い訳を用意するまでは、この事実を伝えずにいるつもりだ。

 だから上手く隠し通そうとしたのに、響一は何かに勘付いたようだ。照明の光を妨げるようにあかりの前に立ち塞がった響一は、綺麗に整った顔を悔しげに歪ませながら、身体の位置を下げた。

 否、未だに座ったままのあかりのあかりの腕をつかみ、それをソファの背もたれにぐっと押さえ付ける。まるであかりを拘束するように。逃さないとでも言うように。

「俺とあかりは、確かに始まりは契約結婚だ。けど……もう夫婦なんだぞ」
「え、あの……?」

 そして苦悶の表情を浮かべた響一が、さらに低い声で不満を口にする。

「誰かに電話してるのも、朝から晩までずっとスマホの画面ばかり見てるのも、誰かとメールでやり取りしてるのも、ちゃんと知ってる」

(う……バレてた……)

 響一の指摘に、あかりは言葉に詰まった。

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