偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 確かに彼の言う通り、必死に再就職先を探すあまりついスマートフォンの画面に熱中してしまう。夢中になって求人サイトや今の職場と似たようなサロンの公式サイトを検索してしまう。職業安定所に相談したりmoharaの仕事仲間と情報交換をしているので、普段はあまり使わない通話でのやりとりもある。転職支援会社からメールが来ることもある。

 そしてそれらはすべて響一には知られないように秘密裏に行っている。だから電話が来れば席を外すし、メールの内容を見られないように少し距離を取ることもある。

 響一はあかりのそんな態度を観察し、あかりが隠れて仕事を探していることに気付いていたらしい。知られないように、と思っていたのにすでにバレていたらしい。

「あかりに好きな男が出来ても、俺は絶対に離婚なんてしない」
「…………。……ん?」

 と思ったら、違った。
 
 ――違う、らしい。響一はあかりの行動の本当の意味には気付いていなかったらしい。

 そうか、じゃあまだ秘密にしておいていいか……とはならない。

「え、ど……どういう……っ」
「……誰にも渡さない」

 ぎらり、と。あかりの身体をソファの背もたれに押し付けて斜め上から見下ろす視線に、思わず背筋が凍ってしまう。

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