偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
ヨイショ。
フーゥ。
お父さんの施設の前まで来て、私はやっと息をついた。

アパートから駅まで徒歩で10分。
そこから電車で15分と、到着した駅から施設までが10分。
距離はそう遠くないけれど、駅から施設までの緩やかな坂道は地味に疲れる。
とにかく私には荷物が多いから。

「大丈夫ですか、真理愛さん」
お父さんが入所して一年。週に3度は訪れる私の顔を職員も覚えてしまったようだ。

「荷物持ちましょうか?」
まだ肩で息をしている私に差し出された手。

「ありがとうございます」
さすがに遠慮する気にもなれず、右肩に抱えていた大きなトートバックを下ろした。

はー。
これで荷物が半分なくなった。

「これはお父さんの着替えですか?」
「はい。もうすぐ暖かくなりますから少し薄手のものを持ってきました」
「では、片づけておきますね」
「お願いします」

昨年肝臓が悪くて倒れたお父さんは1週間以上意識がない状態だった。
もしかしたらこのまま命を落とすんじゃないかと心配したけれど、何とか回復して話すことも食べることも自分でできるようになった。
ただ、立ったり歩いたりは未だにできない。
今でもリハビリはしているけれど、1人で暮らせるまでに回復することはないだろうと先生からも言われている。

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