社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「あー、あのっ。田岡さん、野田さん、悪いんじゃけど事務所(ここ)の戸締り――」

 最後に事務所を出る人間は、警備会社のセキュリティシステムを起動しなければならない。

 田岡は微妙かもしれないが、ここに勤めて長い野田がいるからその辺も大丈夫じゃよな?と思う。
 そう、思ってはみたけれど――。

 くるみにグイグイ引っ張られながらも、実篤(さねあつ)は咄嗟にあれこれ思いを巡らせて。

 いや、やっぱしこんなんダメじゃろ!と立ち止まる。


「ちょっ、ちょっと待って、くるみちゃん! 俺、ちゃんとここの戸締りやらしてからでないと出られんけん!」

 私用でそういうことを従業員任せにするのはやっぱり責任者として有り得んじゃろ、と思い直した実篤だ。

 大抵のことはくるみの意見を通して流される実篤だけど、大人の男として日常業務(そういうの)をおろそかにするのはやはり良くないと思ってしまった。

「ご、ごめんなさい、〝うち〟――」

 実篤の言葉に、くるみがシュン、として。
 素が出てしまったんだろう。「うち」とつぶやく姿が、キュンとするぐらい弱々しく見えて守ってやりたくなった実篤だ。
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