eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~
さて、気を取り直す。

ヤマトの配信にあがる以上、中途半端なことはできない。

私は自分で作ったノートを広げる。

この前のコンボの起点はおそらく注意される。となるとラピスの動きは下段から差し込むのが正解か……?

ううん、空中必殺技でけん制しつつも攻めることができる。
それなら私は、距離を置いてプリズミックで……。ヤマトとの戦いを脳内でシュミレーションする。


格闘ゲームはその場その場で考えて動くだけじゃない。相手のキャラがどんな動きをして、どんな攻め方が得意なのかの癖を読むことも重要なのだ。
そして、「ヤマトがどうしたいのか」「どんな状況を作りたいのか」を考える必要がある。

まるで恋の駆け引きみたいだ。
私は犬の耳が付いたヘアバンドで前髪を上げる。

さぁ、勝負開始だ。


軽やかな電子音が鳴る。私がヤマトの対戦部屋に入室した合図だ。

「あ、ハルさんいらっしゃい! 今日はよろしくお願いします」

画面のなかのヤマトが笑顔で手を振ってくれて、もしかしたらこれは夢なんじゃないのかとさえ思う。イケメンの笑顔の攻撃力は桁違いだ。

ふと配信の視聴者数を見ると1000人を超えていた。そのことを実感すると、さーっと背中に何かが走る感覚があって、指が震える。

「だめだめ、気にしないようにしないと」

「とりあえず、10戦ほどお願いします」

私はゲーム内の定型文で「はい」と返事をする。集中したいのでゲーム画面だけを見るようにした。ヤマトの声だけは、しっかり届いてしまうけれど。

ヤマトはラピスを、私はストロベリーを使って戦い始める。やっぱりヤマトは強い。強すぎる。この前の私の戦い方からしっかり対策をしてきているし、私がその対策を読んだ行動をすると、すかさずヤマトも対応してくる。連戦すればするほど、そのことがはっきりとわかる。10戦して、結果は6対4。今回はヤマトが勝ち越していた。

「くっ、悔しい……」

一回ヤマトに勝ったくらいで自分は調子に乗っていたと心から思った。対ヤマトの戦法をひたすら考えて実行しても、やっぱり甘くない。これが、ヤマトの積み重ねてきた努力の結果なのが、プレイしていると嫌でもわかる。

「いや、やっぱりハルさんの動き半端ないですね。差し込める選択肢の多さとタイミングの合わせ方がうますぎる」

「半端ないのはヤマトだって」

私は苦笑いする。10戦してすでに私は集中力が切れてきている。しかし、ヤマトは何食わぬ顔で視聴者にコメントを返していた。

かなわないなぁ。かっこいいいなあ。……悔しいな。色々な思いが私のなかで渦巻く。
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