独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 結子がテーブルにぺとん、と額をつけて正直な気持ちを吐き出すと、それまでにこやかだった奏一の声音が急にトーンダウンした。

「イリヤホテルグループ総取締役の入谷 晃一の申し入れを、ブリリアントサヤマの佐山 亨社長が断れるとでも?」
「……んう」

 奏一の容赦ない言葉に、つい急所を突かれたような声が出てしまう。

 業績が右肩上がりのイリヤホテルグループと異なり、結子の父が経営するブライダルドレスメーカーのブリリアントサヤマの業績は低迷気味だ。

 祖父の代から続く老舗のドレスメーカーとはいえ、昨今は有名ファッションブランドがウェディング業界に参入してきたために、その煽りをもろに受けている。さらに価値観の変化や社会情勢から、挙式やパーティを催すカップルも減少傾向にあるのだ。

 徐々に取引先が減ってきた弱小ドレスメーカーのブリリアントサヤマにとって、結婚式場やブライダルサロンも併設するイリヤホテルグループとの取引が無くなるのは大きな痛手に違いない。

 もちろん結子がどうしても嫌なら両親も無理強いはしないだろう。だがその選択は父の会社が窮地に立たされることと同意義だ。

「政略結婚なんだから、諦めて?」

 怒っているのかと思われた奏一が、また急ににこやかな笑顔に戻る。やわらく微笑む表情の変化に、本気で彼の不興を買ったわけではないと知ってほっと息を吐く。その拍子に、結子の口からは本心がポロリと零れ出てしまった。

「政略結婚なら、兄の方でお願いします」
「だから兄さんはもう結婚したってば」

 奏一の呆れた声に、結子はさらに長いため息をハァと吐き出した。

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