独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

7. ゆっくりと。


 頬に何かが触れている気がする。肌の上を何かがゆっくりと辿っていく。

 そのくすぐったさと不快を合わせたような感覚を嫌がって、手で頬の上を拭ってみる。ついでに顔を背けて『んーん』と声を出すと、頬に触れているそれはすぐに退いた。

 けれどまた同じように『何か』が頬に触れる。何度か手でぱしっと振り払うが、性懲りもなくそれは結子の頬に触れたがる。

 数回の攻防ののち、結子は不機嫌を隠すこともせずぼんやりと目を見開いた。

「おはよ、結子」

 枕から頭をあげてみると、隣で奏一が笑っていた。にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべて、結子の髪に指の先をくるくると巻き付けて遊んでいる。

 どうやら先ほどから頬に触れていたのは、奏一の手や指だったらしい。人の眠りを妨げるようないたずらをして、眠気と戦う結子の様子を観察していたようだ。

「……ん」
「な~に? まだ眠いの?」

 休日は気が済むまで眠っていたい派の結子は、奏一の笑顔を見なかったことにして再び布団の中に潜り込んだ。起きたいなら一人で起きればいいと思う。結子はまだ眠いのだから。

 人のぬくもりが移ってほんのりとあたたかいシーツに意識を委ねようとしたが、結子に二度寝は許されなかった。隣で奏一がもぞもぞと動いたかと思うと、彼は再び結子の肌に触れる。

 けれど今度は頬ではない。

「ふひゅあっ……!?」
「え……今の声、どこから出したの?」

 脇腹をスルリと撫でられたくすぐったさに驚き、その場にぴくっと跳び上がる。

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