独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 自分でもこれが喧嘩ではなく、もはやただ意地になっているだけだと気付いている。自分が大人げないだけだと、頭のどこかでは理解している。

 だから仲直りがしたいなら、結子は自分から伝えればいいだけだ。結子が怒って悲しんでいる本当の理由に奏一が辿り着けないのならば、こちらから『もっと頼って欲しい』『甘えて欲しい』『支えになりたい』と素直に言えばいいだけだ。

 なのに言えない。

 もちろんそう言えば、優しい奏一は結子の望むように振る舞ってくれるだろう。

 けれど違う。結子は奏一を束縛したいわけではない。すべてを共有したいわけではない。奏一の行動を強制したいわけではない。

 ただ奏一と、本当の意味で分かり合いたかった。支え合いたかった。そう思う気持ちを知って欲しかった。

(奏一さん……)

 ディナーの場所に指定されたのは、イリヤホテル東京エメラルドガーデンの本館十六階にあるレストラン。都心のクリスマスの夜景を見ながら一緒に食事しようと、こうして気まずくなるよりも前に誘われていたのだ。

 仕事が終わるのが遅いから俺の職場になっちゃうのが申し訳ないんだけど、とはにかんだ顔を思い出す。

 その笑顔を見た結子も、イリヤホテルの美味しいディナーが食べれるならいいよ、と返事をしたのに。

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