独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 楽しみにしていた。こんな風に気まずくなる前までは……いや、本当は今だって、奏一と過ごす時間を楽しみにしている。

 二人で一緒に美味しい食事をして、美味しいお酒を飲んで、綺麗な景色を眺めながら、和やかなクリスマスの夜を過ごしたいと思っている。でもそれは無理かもしれない、とも思ってしまう。

 約束したホテルのロビーに入って時間を確認すると、待ち合わせ時間の二十一時になる少し前だった。

 チェックインのピーク時間をとうの昔に過ぎているためか、ロビーはそれほど混雑していない。夜間営業に変わったラウンジにも人はまばらだし、ライトアップされた木々が彩る中庭の『エメラルドガーデン』でくつろぐ人々もそれほど多くはない。

 しかし結子はクリスマスの夜によく合うお洒落な空間よりも、フロント横から奥へと続く通路に釘付けになった。

 その向こうから歩いてきたのが、夫である奏一とホテルの制服を着た若い女性だったから。

「……楽しそう」

 会話をする二人は、お互いに笑顔で笑い合っていた。話の内容はもちろんわからないが、その表情はどちらも笑顔で、傍目から見ても楽しそうな雰囲気だった。

 もちろん仕事なのはわかっている。女性の左胸のポケットについているのは、このホテルの従業員に用意されるネームプレートだ。そしてその隣にピンズを着けている人は何らかの役職が与えられている人だと、以前奏一に聞いたことがある。

 ならば二人は重要な役職に就く者同士で、会話の内容もおそらく仕事のことだろう。

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