現実主義者の恋愛事情・王子を一時預かりします  レイと綺麗
「あのですね・・・
タクシー来てるんですけど・・」

王子の手が緩んだ。

綺麗は王子の腕をするりと抜けて、
タクシーに駆け寄った。

「電話した桐谷です。
こちらの方、ホテルまでお願いします」

運転手がうなずき、後部ドアを開けた。

綺麗は王子に向き直り、
動揺を見せないよう笑顔を
張り付けた。

「レイさん、さよなら、
お気をつけて」

王子は名残惜しそうな顔をしたように見えたが、
タクシーに乗り込んだ。

綺麗は深々と頭を下げた。

視線を合わせたくなかったから。

おばちゃんをドキドキさせる
のは・・罪だぞ。

そのままタクシーが発進した。

綺麗は道路沿いの石垣に
もたれるようにしゃがんだ。

猫に似ている・・?

あの普通にミックス三毛ちゃん
だけど。

一夜の夢か、幻か、
はたまた、化け猫の異変か?

綺麗はバックからスマホを取り出し、高梨に連絡をした。

<2次会は行かない。
体調が悪い>

王子様に抱きしめられて、
おばちゃんはショックで
立ち上がれない・・

誰が信じるか?

流しのタクシーが、空車のライトをつけて通る。

綺麗はタクシーを止めようと手を
上げかけたが、
思い直して下ろした。

やっぱり駅まで歩こう。

駅の方角はネオンやライトで
明るい。

ついでに空腹であることにも
気が付いた。

駅の立ち食いソバでも食って
帰るか・・

空腹は
現実世界に引き戻す。
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