現実主義者の恋愛事情・王子を一時預かりします  レイと綺麗
少し歩くと、
大きい道路に出るから、
タクシーが止まるには都合がいい。

「レイさん、こっちでお願いします。
タクシー・・来るから」

綺麗は道案内するつもりで、
先に歩き始めた。

道路沿いを二人で歩く。

この人は背が高い。
しゅっとしている。

綺麗は父親も背が高く、
幼心にかっこいいと思った事を思い出した。

小さかった時は、手をつないで歩いた。

父の大きな手・・・

綺麗は首を振り、
その記憶を追い払った。

今は違う対応をしなくてはならない。

さっきの猫の話・・
気まずいままだし・・

綺麗も猫好きなので、
死なれた時の気持ちはわかるつもりだ。

この人はペットロスから、
まだ立ち直れていないのだろう。

「あの・・レイさん」

一言、一言、
ゆっくりと言葉を紡いだ。

「レイさんの猫ちゃん、
きっと幸せだったと思います。
18歳って猫にとっては長寿で・・

猫ちゃんもレイさんの事を
すんごく好きだったから、
最後まで頑張ったんですね」

「本当に・・
そう思いますか・・?」

王子が立ち止まったので、
綺麗も止まった。

「私も経験があるので・・
あなたのつらい気持ちは・・」

王子がやや手を広げ、
綺麗の正面に立った。

「あの・・ハグしてもいいですか?」

「はいぃ?」

その瞬間
王子は覆いかぶさるように、
綺麗を抱きしめていた。

王子様、王子様、

ちょっと違うよ・・
梅酒で悪酔いしたんか?

「あなたは・・・
プレッシャスに似ている」

吐息のように耳元で
ささやかれた。

どわっ・・・
うなじが、ぞわぞわするんだけど・・・

ううううう・・・んんと

こいつには確か、
フランス人の彼氏がいて・・

目をぱちくりさせている
綺麗の視界に、
タクシーのハザードライトが
滑り込んできた。
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