それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。

本当にすきなひと

11月3日、文化祭当日。

スマートフォンの待ち受け画面に“14:00”が表示されたと同時に、私の隣でクラスの出し物の1つであるポップコーンを作っている美羽に、「ごめんね」と手を合わせながら謝る。

「私、そろそろ抜けるね?」

「あ、もうそんな時間?」

疲れたのか、頬を膨らませながら、美羽はふーっと息を吐きだすと、にっこり微笑む。

「楽しんでおいでね」

「ありがとう!」

優しく背中を押してくれた美羽にお礼を伝え、じゃがバターやフランクフルトを作っている他のクラスメイトにも一言断りを入れてから、熱気の篭った自分のクラスの簡易テントを抜け出す。

「よし」

スカートから手鏡を取り出して前髪を整えると、賑わうグラウンドを足早に通り過ぎ、グラウンドの出入り口へ向かった。


「ごめんね、待った?」

グラウンドの柵にもたれかかりながら、スマートフォンを操作している翼に声をかける。

「おお、沙帆。お疲れ様」

翼はブレザーのポケットにスマートフォンをしまうと、「俺も今来たところだよ」と、私を安心させるかのような柔らかな笑顔で答えた。

「それに、ほら」

翼は自分の腕時計を見せた。

「まだ約束の5分前だよ」

「よかった」

胸をなでおろすと、翼は「沙帆が誘ってくれたのが嬉しくて、早く来ちゃった」と笑った。


“文化祭、一緒にまわりませんか”

数日前、誘いの連絡を入れたのは私だった。

“高校生活最後の行事だから、少しの時間でもいいので、一緒に回りたいです”

テキストでお誘いをした私に対し、彼は、「一緒に回ろう!」ととても嬉しそうに、電話で返事を伝えてくれた。

「こうやって沙帆から誘ってくれるなんて珍しいからさ、俺、浮かれちゃったよ」

翼の屈託のない笑顔がとても嬉しく思うのと同時に、あまり誘い慣れていないためか、なんだか恥ずかしい。

「喜んでもらえたのならよかった」

「おう、凄く嬉しかったよ」

「そうですか」

少し素っ気なく答えた私に、翼は「照れていますか?」と顔を覗き込んだ。

「照れてないよっ」

「……どう見ても照れているよね?」

「照れてないってば!」

勢いよく言い返すと、翼はハハッと笑う。

「もう、ほら、りんご飴食べに行こ」

まだからかってきそうな翼の腕を引っ張ると、彼は「はいはい」と笑いながら、ついてきてくれた。
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