高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


桃ちゃんの家にはたまに遊びにきていて、そのたびに厚いおもてなしをされてはいるけれど、ここまでの量は経験がなかった。

なので、お詫びの意味も込めてなのかな、と考えていると桃ちゃんがチョコレートをつまむ。

「これはたまたま。父が、患者さんと手術内容について話すときに出すお菓子を決めかねてて、味見係になってるの。だから美波もおいしいのあったら言ってね」
「ああ、そうなんだ。わかった」

とりあえず、私のために用意してくれたわけではないと知り安心する。
そして、ふたりしてああでもないこうでもないと言いながらクッキーやチョコレートを少し食べ進めたところで、桃ちゃんが話を戻した。

「でも、上条さん、噂とは違って案外誠実な人だったからびっくりした」
「え……そうなの?」
「うん。私が美波を心配する気持ちをちゃんと理解してくれて、しっかり向き合ってくれたから、そういう態度を見てホッとした。『こういう感情には不慣れなので、自分なりになりますが、大事にしていきたいと思ってます』ってハッキリ言ってくれたの」

桃ちゃんが教えてくれる上条さんが、私の知っている彼とはあまりにかけ離れていて驚く。

でも、敬語も真摯な態度もとても嬉しくて、なによりも私がいないところでも想いを声にしてくれたことが嬉しくて、うっかりすると涙が出そうになるので歯をかみしめた。


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