高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


祖父母がお祭りが大好きだったからよく連れてきてもらった。
着せてもらった紺色の浴衣にも、楽しそうに笑う祖母たちの横顔にも、非日常の雰囲気にも嬉しくなったのを今も覚えている。

祖母はお祭りに行くたびに射的で出禁を言い渡されるほど景品をとってたなぁ……と懐かしくなる。

今、考えると、なかなかのギャンブラーで強運の持ち主だったのかもしれない。
スクラッチも競馬も、しょんぼりする祖父の横で、祖母はいつも笑顔だった気がする。

そんな祖母からもらったお守りだから、よく効いたのだろうか。
ギリギリ判定だった大学に無事合格できたのもそのおかげかもしれない。

道を右に曲がりしばらく歩くと、三十段ほどの階段があり、その上にお祭り特有のオレンジ色の明かりが見えた。

階段を上がるごとに提灯や屋台が見えてきて、気持ちが昂る。
隣を歩いている上条さんがなにか言いたそうに私を見て目を細めていたので、ドキッとしながら首を傾げた。

「なんですか?」
「いや、さっきおまえが言っていた屋台が意外と肉食系揃いだったと思ったんだが……これまでの高坂の言動を思い出せば意外でもないかと考え直しただけだ」

きっと、恋愛に対してのことを言っているんだろうというのがわかり、なんとなく恥ずかしくなって眉を寄せた。

もっと、りんご飴だとか綿あめだとか、可愛らしい屋台を言えばよかった。



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