やわく、制服で隠して。
複雑なのは、主人よね。
ふふ。…はぁ。ごめんなさい。主人の心境を考えたらつい笑えてしまって。

深春、そんなに怒らないで。
もう!棗くん、あなたまで呆れた目で見ないでちょうだい。
…あら、私ったら。こんなに話してたからつい、“棗くん”なんて呼んじゃったわね。ふふ…。

そう、主人はね、とっても複雑な気持ちになっていたと思うわ。

十六年。やっと目の前に、手の届く距離に“長女”が居るのよ。
男に襲われて震えている体。ようやく初めて会えたのに、産声じゃなくて、苦しい涙を流している。

仕組まなくても向こうのほうからやってきた転機に、心の底から喜べなくて、しばらくの間、主人は元気が無かったわね。

それでもだんだんとね、やっぱり会えたことへの喜びのほうが強くなっていったし、それに突然、冬子ちゃんとも再会することになった。

あの日、“ご両親に連絡しよう”って主人は言ったと思うけれど、一か八か賭けをしたのね。
目の前にいるまふゆちゃんは、どう見ても絶対に冬子ちゃんの娘だし、この少女は本当にあの頃の冬子ちゃんの生き写しだと思ったって、主人は言っていたわ。

私も、今でも本当にそう思うの。
だから、間違いなく冬子ちゃんと自分の娘だけど、ここでやって来る母親が本当に冬子ちゃんかどうか確かめたくなったのね。

そして再会は果たされた。
私達と同じだけ冬子ちゃんだって歳を重ねていたけれど、あの頃の冬子ちゃんの面影はしっかり残っていて、見事に“他人のフリ”を演じ切った頭の回転の速さにも、感心すらしたって、主人は興奮気味に教えてくれたわ。

私もそんな冬子ちゃんを見たかったから嫉妬したわね。
私より先に主人が再会したことも本当はちょっと許せなかったし。

でもいいのよ。
終わり良ければ全てOKだから。

…さぁ。
これが、あなた達が知りたかった“真実”よ。
お楽しみいただけたかしら?

あなた達が産まれて十六年間。
私の気持ちは変わらなかった。
一秒だって冬子ちゃんのことを忘れたことなんて無かった。

これが何よりも、冬子ちゃんへの愛の証明よ。
誰にも偽物だなんて言わせない。
どれだけ非難されたっていい。
冬子ちゃんのことを愛して、もう一度会いたくてそれだけの為にやってきたことへの後悔は一つも無いわ。

棗くんと結婚したことも、深春を産んだことも、そのせいで深春とまふゆちゃんの恋は叶えられないかもしれないけれど、安心して?
私は二人の恋愛を否定したりしない。

私だけはあなた達の味方よ。
法律や世間体で、本当の恋はどうにかなるものじゃないじゃない。

まふゆちゃん?どうしたの?
…痛い?

あぁ!深春、ちょっと手を離してあげて!
まふゆちゃんの手に爪が食い込んでるわ。
血が滲んじゃってる…。大丈夫?絆創膏を持ってくるから、ちょっと待っててね。
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