やわく、制服で隠して。
下足箱には深春の靴があったのに、教室には居なかった。

「おはよ。深春って見た?」

「おはよー。深春ちゃんなら二年の先輩と出て行ったよ。ほらあの、バスケ部の…。」

二年生のバスケ部の先輩。
そういうと大抵の女子には誰のことなのか伝わった。

バスケ部のエースで容姿もズバ抜けて良い。ファンクラブもあるって噂だ。

嫌な予感しかしなくて、教えてくれたクラスメイトにお礼を言って教室を出た。
学校中から二人を探すのは無茶な気もしたけれど、バスケ部の先輩なんだからきっと体育館だ。

朝練は終わっている時間だし、そんなに人も居ないはず。
嫌な予感だって私が思っているだけで、ひょっとしたら深春にとっては嬉しいことかもしれない。

それでも私はどうしても止めたかった。
お願い。深春を取らないで。
あぁ、私って本当に、なんでこういう風になったんだろう。

「あれ、まふゆ?髪…」

「ちょっとごめん、急いでる。」

廊下でアミとすれ違った。アミは私に話しかけようとしたけれど、それを遮った。

「ちょっとまふゆ!話!」

「ごめん!あとでアミんとこ行くから!」

アミは怒っていた。怒っているっていうより、どこか焦っているように見えた。
きっとカホ絡みだ。あれ以来、グループのトークもほとんどスルーしてしまっている。
そろそろグループを抜けるって言わなきゃと思っていた。

体育館に向かう途中で一応先輩のクラスとか中庭とかも覗いたけれど、やっぱりそこには居ない。

早歩きで探していたけれど、途中からは気付いたら走っていて、体育館に着く頃には息が切れていた。

体育館の前はシンとしていて、もうほとんどの生徒が教室に戻っている。
自分の荒い呼吸がうるさい。

体育館の中。ステージの前。深春とバスケ部エースの先輩が向かい合って立っている。

遠くから見ていてもお似合いの二人だって思った。
体育館の高い窓から差し込んだ陽射しが神々しくて、チャペルみたいだった。

声はもちろん聞こえない。けれど何を話しているかくらいは分かる。
心臓がドクドク鳴っている。喉がカラカラだった。

深春!って声を出したいのに、声が出せない。
絶対に止めさせようと思って来たくせに、今更になってそんな最低なこと出来っこ無いなんて思ってしまう。

体育館からそっと離れた。
さっきまで廊下はまだ賑やかだったのに、もうすぐ朝礼が始まるから、みんな教室に戻っている。

深春と先輩も早くしなきゃ遅刻しちゃうのに。
体育館での二人の様子が目に焼き付いて離れない。
あれが“普通”の光景だ。

私が望んでいる未来はきっと普通じゃない。
どれだけ綺麗事を並べても。多分。
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