やわく、制服で隠して。
「まーふゆ!おはよ。」

朝礼が終わって、深春が私の席に来た。
結局深春は朝礼が始まってちょっと遅れてから教室に入ってきた。
出席確認がもう始まっていて、まふゆの名前が呼ばれるギリギリだった。

「おはよ。」

「…なんか怒ってる?」

「別に…。」

「うそ。怒ってるじゃん。」

「私、ちょっとアミに呼ばれてるから。」

椅子から立ち上がって、ぶっきらぼうに言った。
まふゆは私の机の所で中腰になって、両腕をペタンと机に乗せたまま、私を見上げている。

「まふゆ、どうしたの。」

深春が少し心配そうな顔をした。
一人で拗ねているのが恥ずかしくなって、深春から目を逸らして足早に教室を出た。

私が聞かなくても、深春から話してきてよ。
どうしたの、なんて何でも無いことみたいに振る舞わないでよ。

隣の教室で、ドアの近くに立っていたアミのクラスメイトに、アミを呼んでもらった。
出てきたアミはおかしそうに私の髪のことをイジッた。

まふゆらしくないってアミは笑っているけれど、私らしいって何?
私の何を知っているっていうのだろう。

心がカサついている。
きっと悪気はないアミのことも、急に現れて私達の仲を掻き乱そうとする先輩のことも、話してくれない深春のことも、全部イライラしてしまう。

深春は私には全部話してって言ったのに。
全部話すよって約束したのに。

アミの喋っている声がすり抜けていく。
「ちょっと、聞いてるの!?」ってアミは怒っている。

「ごめん。」

呟いて、アミの顔を見た。
ずっと私とカホの伝言役をさせられているアミの中には、彼女自身の意思はあるのだろうか。

早く言わなきゃ。
もう中学の頃の“仲間”とはツルまない。
そういう暮らしは辞めるって。

「アミ。」

「で、まふゆも絶対来てよね。合コン。」

「…合コン?」

「はぁ?ほらやっぱり聞いてないじゃん!」

突然の合コンのお誘い。アミの言う通り、聞いていなかったから何の話だかさっぱり分からない。

「今週の金曜日の夜!合コンするから!」

アミが言い切って、見計らったようにチャイムが鳴った。

「じゃあ後で、参加するってトーク送っといてね。」

アミが機嫌良さそうに手を振って教室に入っていく。
ボーッと自分の教室に戻った私の頭の中には、今朝のことだけで色んな情報が渦巻いていた。

合コン?あー、また厄介なことになってしまった。
どうせまた大学生か、もしかしたら相手は社会人かも。こっちが高校生だって知っていて参加するのだろうか。そんなの絶対ロクなことにならない。

トラウマで背筋がゾッとした。
自分の席に戻って、一時間目の担当教諭が来るまでに、サッとスマホを操作した。

グループのトーク欄。
「合コン行かないからね。」って私のメッセージに、すぐに二件の既読マークが付いた。

スマホの電源を落として、鞄に放り込む。
頭を抱えたい。何もかもが面倒臭い。
精算しなきゃいけないことが山ほどあって、過去の自分のいい加減さを呪った。
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