離婚前夜に身ごもったら、御曹司の過保護な溺愛に捕まりました
 こうして朝のお見送りをするのは大切な仕事のひとつだ。

 義母に着つけてもらった着物は薄紫色で模様がない。一見すると地味だが、訪れるお客様は私を見て素敵だと褒めてくれた。

 お見送りのあとは旅館の各所の清掃と点検だ。

 それを専門とした従業員もいるが、旅館について特になにも知らない私は積極的にこの仕事を行った。

 たちばなのどこになにがあるか、各部屋の間取りや特徴、売店や浴場への現在位置からの最短距離などを頭に叩き込むのはなかなか楽しい。

 義母も積極的に私を育ててくれた。

 突然現れた息子の嫁に対して衝撃を受けるくらい温かな人ではあるが、女将としての姿は非常に厳しい。

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