あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
それから2週間後、父は病院を退院することになった。
母と対面してから、記憶はさらにはっきりと思い出すことができたのだ。
歩く練習も始めた、まだ一人では歩けないが、杖を使って立ち上がり、手すりなどがあれば少し歩けるようにもなってきた。
父は母のマンションで一緒に暮らすことになった。
今日は土曜日、悠斗さんは仕事が忙しく一緒に来れないが、私は両親の待つマンションへ遊びに来ていた。
「お父さん、お母さん、お土産買ってきたよ!」
今日は母の大好きな豆大福と、父が昔好きだった鱒の押し寿司をお土産に持ってきたのだ。
とても不思議な感覚だ。
もう両親が揃って笑っているところは、二度と見ることが出来ないと思っていた、しかし、今私の目の前にその光景が広がっているのだ。
まわりの全てが輝いて見えていた。
「あらぁ、私の好きな豆々堂の豆大福だわ!美味しそう。」
母は目を輝かせて喜んでくれた。
父は少し感慨深い表情をした。
「そうだったな…私は鱒の押し寿司が好きだったんだよな…今までずっと忘れていたよ。ありがとう…桜。」
「うん。」
親子3人で笑いながら食事をしたのは何年前の話になるのだろう。
こんなに嬉しいことはない。
母は静かに話し始める。
「今、私達がこうして笑いあえるのは、神宮寺さんが私達を守ってくれたからなのね…ご自身は責任を感じているけれど、感謝しているわ。」
確かに元々の原因には悠斗さんも関係あるかも知れないけれど、こうしてまた親子の穏やかな時間をくれたのは優斗さんだ。
恨んで過ごした時間が悔しくも感じて来る。
しかし、よく考えてみると、悠斗さんを恨んでなければ、近づくための努力もしなかっただろうし、私は知らない人のままだったのかも知れない。
そう考えると、恨んでいた時間も、悠斗さんに出会うための時間だったと思えば無駄ではなかったのだ。