「神宮寺社長、退院おめでとうございます。」

「もう、大丈夫なのですか?」


今日から悠斗さんは会社に出社することとなった。
5日間ではあるが、社長である悠斗さんが休むことは、今まで無かったようだ。

第一秘書の須藤をはじめ、秘書課一同が立ち上がり、皆が声を掛けながら、悠斗さんの近くへ集まった。


「みんな、心配かけてすまなかった。今日から今までの分を取り戻すから許してくれ。」


そして、不思議な事に社内では、誰が噂を流したのか、祥子とその父親の進藤が神宮寺社長を陥れたと、大ニュースになっている。
どこからそんな情報が会社に伝わったのかは分らない。

当然、第一秘書の須藤と私は、何か知っているかと思われて質問攻めだ。
さすがに須藤には聞きずらい女性軍は、私を追いかける。


「伊織さん…伊織さん!」

「何か、御用でしょうか?」

「神宮寺社長が、進藤祥子に狙われたって本当なんでしょ?」

聞いてきたのは、秘書課のお局的な存在の白鳥さんという女性だ。
美人ではあるが、かなり自信家で、目立つ存在だ。いつも子分のような女性たちを引き連れている。女王様といった感じだ。
そして、神宮寺社長をあからさまに狙っていると、有名な女性だ。

私はこの話に巻き込まれるのは御免だ、それにこの人達とも関りたくない…それに、軽はずみな事を言えば、自分の墓穴を掘る危険がある。
知らない振りに徹することにする。


「申し訳ございません。私は何も存じ上げません。」


すると、女性たちは急に態度を変えて、恐い顔をする。


「なによ…社長秘書だからって偉そうに…何様のつもりなの!」


私は何も言えず、そのまま黙って我慢することしかできない。
ただ、目をつぶり女性たちの気が済むのを待つことにする。

彼女たちの言葉の攻撃が続いている。
次から次へと、私に関るエピソードが続く。
その情報量には感心してしまうくらいだ。

すると、後ろから男性の靴音がして、誰かが近づいてくるようだ。
その足音は、カツカツと革靴の音をさせて近づき、私の後ろで止まった。


「盗み聴きは悪いが…何様のつもりだって?…そういうお前も何様のつもりだ。何か聞きたいなら、直接俺に聞けばいいだろ…何が知りたいんだ。答えてやるよ!」

悠斗さんの声だ。

突然の悠斗さんの登場に、白鳥とその周りにいた女性たちは、かなり動揺しているようだ。
顔からは、みるみるうちに血の気が引いて、顔色が悪くなる。
そして、フルフルと震えながら、じりじりと後ずさりを始めた。

悠斗さんの怒りは収まらず、まだ何か言おうとしている。

私は慌てて悠斗さんの前に立ち、女性達との間に入った。


「じ…神宮寺社長…もう…結構です。…私は大丈夫ですので…皆さんを許してあげてください。…恐がっていますよ…」


すると悠斗さんは、その女性たちを厳しい目で睨んだ。
女性たちは、肉食動物に追い詰められた小動物のように、縮こまっている。


「伊織君が、許してやれと言っているので、今回は見逃してやる…ただ、また伊織君に何か言うなら、俺が許さないからな…よく覚えておけ!」


女性たちは、深々とお辞儀をすると、踵を返して逃げるようにその場を去って行った。