隠された彼の素顔
私のヒーロー

 私には、ずっと癒しになっていた人がいた。

 少し猫背で優しげな男性。

 緑がよほど好きで迷っていたのか、ただ慎重な性格なのか。きっと、そのどちらもだったのだと思う。

 私の勤めているフラワーショップに、彼はずいぶん前から通っていた。毎日のようにやってきても見るだけで、なにも買って行かない。

 そしてその彼が、やっとお買い上げいただいたときは、両手をたたいて飛び上がりたい気持ちになった。

 恥ずかしがり屋な性格でもあるのだと思う。彼は、いつも気配を消すようにして入店する。私もわかっているから、敢えて彼の方を注視しないよう心掛ける。

 それでもやっぱり気になって、緑の隙間から彼がどの観葉植物を選んでいるのか観察していると、時折顔を緩ませてから小さな植木鉢を持ち上げた。

 そのときは、たしかポトスだった。

 そうだよね! 新しく生えた新芽の黄緑色がかわいいよね!

 興奮して話しかけたいけれど、グッと抑える。だって警戒されたら、次は来なくなってしまうかもしれない。

 なんとなく人慣れしていない野良猫を手懐けるみたいな感覚で、遠巻きに彼を愛でて癒されていた。

 友達に話せば、絶対に「またそんな頼りない男?」と反対される。私はどうやら、"私がなんとかしてあげなきゃ"と思う男性に惹かれるみたいで、今まで散々友達にダメ出しされてきた。

 私だって、ヒモ男みたいな人とお付き合いしたいわけじゃない。自分の見る目のなさは心得ていたから、彼の存在で癒されて元気をもらえれば、それで良かった。
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