a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜

* * * *

 周吾にもらった鍵を使って部屋に入る。今朝二人で出たのに、初めて入るかのような緊張感を覚えていた。

 ベッドの脇にカバンを置くと、時間も忘れて抱き合ったベッドに倒れ込む。ほんのり香る周吾の匂いが、昨夜の記憶を鮮明に蘇らせていく。

 あんなに鍛えた体を見るのは初めてだった。ましてやあの逞しい体に抱かれたなんて……。

 それから那津はふふっと笑う。彼の体を抱きしめたかったけど、腕が回らなくてつい笑ってしまった。

 辛いことがあったばかりなのに、そんなことをすっかり忘れてしまうくらい、あの時の私の意識は飛んでしまっていた。というか周吾くん、体力ありすぎよね……そう考えるだけで、ほんのりと幸福感に包まれる。

 その時だった。スマホにメッセージが届いた音がして、那津は体をビクッと震わせる。

 何故だろう……わからないけど嫌な予感がする。

 カバンからスマホを取り出し、画面を見た那津は驚きのあまり目を見開いた。

 そこに映し出されていたのは、貴弘が浮気をした女の名前だったのだ。
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