結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
プロローグ
(世界で一番、私を憎むこの男性(ひと)を……どうして愛してしまったのだろう)

 七月、東京都中央区晴海。

 再開発によるモダンな街並みと昔ながらの下町情緒が同居するこのエリアに、世界でも十指に入る規模の海運会社『株式会社水無月シッピング』は本社を構えている。関連会社なども入居する三十二階建ての自社ビルは、数年前に建て替えたばかりでまだピカピカだ。

 その最上階にある社長室で、水無月凛音(りおん)は義兄である龍一の前に立つ。彼の口から語られるのは、凛音には寝耳に水の話だった。

「え?」
「聞こえなかったか?」

 彼の声は硬く冷たい。

 水無月龍一、三十歳という若さで水無月シッピングの社長を務める男。
 艶のある黒髪と同じ色をした瞳。いつもは晴れた日の海面のようにキラキラと輝くその目が、今は憂いを帯びて沈んでいる。

 十年前、母親の再婚で凛音は彼の義妹になった。

「いえ、聞こえなかったわけでは……。縁談とは私に、でしょうか?」
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