没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
(寛大な方ね。ううん、それ以上のなにかを感じるんだけど……なにかしら)

「この度のことに感謝しよう。お礼はなにがいい? なんでも言ってくれ」

「いえ、私は宝石を見せていただいただけですので、なにも……」

「それじゃ俺の気がすまない」

一人称が〝私〟から〝俺〟に変わったのは、オデットをどのように捉えての心境の変化だろうか。

琥珀色の瞳に色気もにじんでいるが、今まで恋愛に無縁だったオデットはその意味を理解できずに目を瞬かせた。

すると今度は、手を取られて甲に口づけられた。

(どうして!?)

鈍感でも年頃の乙女である。

たちまち鼓動を高まらせたオデットは、顔を真っ赤に染めて小魚のように口をパクつかせた。

「あ、あの、あの」

「優しくしたら仲良くなれるって君が言ったんだよ。オデットに興味が湧いた。また呼んでいい? 今度はお茶でも飲みながらゆっくりと話したい」

ジェラールは自信ありげな笑みを浮かべていた。

おそらくは見目麗しき王太子の誘いを断る女性はこれまでにおらず、貴族令嬢なら妃を夢見てもおかしくない状況である。

けれどもオデットの場合、その上に〝没落〟がつくので可能性すら考えなかった。

(もうここには用がないし、心臓が壊れたら困るから呼ばないで……)

思わず首を横にブンブンと振ったオデットは、意図せずにジェラールのプライドを傷つけショックを与えたのだった。




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