没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
夢見る少年と銀匙のルビー


初夏の日差しがヘリンボーン調の床に濃い影を作る午後、カウンターに立つオデットは客対応中である。

隣の地区から四十分かけてやってきたという三十代の婦人は、フルコースのディナーに必要な銀製のカトラリーをひと揃え四組購入し、代金を支払ったところだ。

購入品を丁寧に梱包して手渡したオデットは、笑顔で言葉を添える。

「きっと素敵なディナーになると思います」

特別な日に使うのだと聞いたのでお祝いごとかと思ったのだが、婦人は嫌そうな顔で肩をすくめて見せた。

「違うの。主人の姉が来るというから買ったのよ。馬鹿にされたくないじゃない。私、お姉さんが苦手だから憂鬱だわ。出費もかさんで本当に迷惑」

「そ、そうなんですか。頑張ってください……」

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