恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
通り雨

 帰りの電車に揺られながら、萌音が私に話しかけてきた。

「すごかったね、さくら」

「うん……」

 大空を、群青の鷹のように駆け巡った桧山一尉。
 大地を震わせながら急上昇して、白い雲を引きながら急旋回して、刃が鋭く(えぐ)るように機体を(ひね)った。

 あれが、自衛隊最高の戦闘機パイロットの実力なんだ──。

「ねえ、さくら」

 萌音が少し、心配そうに言った。

「哲也のこと、どうするつもり?」

「……」

 私はぼんやりと、車窓に映る自分の顔を眺めていた。

 正直、どうでもいい。──というか、哲也のことまで考えられない。

 今はただ、耳の奥に、一尉の低く響く声がリフレインしている。
 会話らしい会話なんて、ほとんどしたことないのに。

「さくら。桧山さんは、良くないよ」

 ふいに、萌音が言った。

「確かに、桧山さんはすごい人だと思うよ。でもすごすぎて、さくらが辛くなっちゃうと思う」
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